空を見ていた
土手に座って空を見ているエロ仙人を、オレは遠くから眺めていた。
なんだか朝から様子がおかしい。オレの修行そっちのけで考え込んでる。
『今日は何を教えてくれるってばよ!』って尋ねたら適当に復習しておけとそっけない返事が返ってきた。
もしかしてオレ、なんかしたってばよ…?
普段あんまりつかわない頭を一生懸命回転させて考えてみる。
立っていても思いつかなかったから逆立ちしてみた。視界の中のエロ仙人がくるりと回った。
…えっと、今日は11月の…11日で……、アレ?
10日くらい前のことを思い出した。
『もうすぐワシの誕生日だからのォ、忘れるなよ。11月11日だからの。お前が何をくれるか楽しみにしてるぞ』
『はあ〜!?エロ仙人ってばオレの誕生日にはなーんもくんなかったってばよ!』
『…さ、さあ何のことだかわからんのォ。あの頃はお前の修行で忙しかったしの』
『ざっけんな、エロ仙人!オレずーっとずーっと10月10日はオレの誕生日だって言ってたのに…それにオレ今任務サボってるから金ないってばよ!?だいたい弟子からプレゼントせびろうなんてセコいってば…』
『とにかく!期待してるからのォ』
なんか思い出したらまた腹が立ってきた。 一ヶ月も前から誕生日誕生日って言っていたのに、前の日めちゃくちゃしごかれてぶったおれて、起きたら誕生日はとっくに終わっていた。もちろんエロ仙人からはなんもナシ。
エロ仙人と修行の旅に出て任務をこなしてないから、貯めていた金は減る一方だってのに全然おごってくれないし、その上プレゼントよこせだなんて虫が良すぎる。
ホント金に汚いしエロいしダメな大人だってばよ。
でも肝心なことは思い出した。
今日はエロ仙人の誕生日。
思い出した瞬間に忘れようと思ったけど、目の前の逆さまの視界の中でヘコんでるエロ仙人を見てるとそうもいかない。
…あれはやっぱオレが誕生日のこと忘れてるから落ち込んでるってば…?
軽く飛んで地面に足をつけ元の姿勢に戻る。
これ以上長引くとオレの修行にも差し支える。なんとかした方が良い。
首をひねってちょっとの間考えた。やっぱりあの方法が一番キク。金もかかんないし。うん、アレでいこう。
「変化!!お色気の術!」
「ジ・ラ・イ・ヤ・様ッ」
精一杯可愛い(だろうと思う)声で背後から迫ってみた。大人だったら皆イチコロの例の姿。金髪のツーテールにボンキュッボンのナイスバディ。
正直エロ仙人にこの手が通用しなかったことはない。
…なのに。
振り返ったエロ仙人は、変化したオレの姿をしげしげと眺めたあげくこう言った。
「…この程度ではダメだのォ」
表情すらも変えずに。
誕生日おめでとう、という暇もなかった。
そんなバカな!?
エロ仙人の前から逃げ出したオレは、木陰にうずくまって頭を抱え込んだ。
「あ、ありえねーってばよ…」
エロエロ攻撃も通じないなんて、そんなにオレが誕生日を無視してることがショックなのか!?
やっぱりプレゼントをあげなきゃダメみたいだ。
がまちゃんを引っ張り出して中を覗きこんだ。節約してるつもりでも旅に出た時に比べればかなり減っている。
「こんだけじゃプレゼントなんて買えっこないってばよ…ていうかエロ仙人が喜ぶプレゼントって何?」
ケーキくらいなら買えるかもしれない。金を数えてみてそう思った。
エロ仙人がケーキを喜ぶかどうかは別だけど、やっぱ誕生日はケーキだし。…オレの時はケーキすらなかったけどっ。
今から街まで行けば、たぶん今日中には帰ってこれる。
エロ仙人の機嫌をとって、これからもちゃんと修行を見てもらうってばよ。
決意を胸に、オレは街を目指して駆け出した。
帰りはケーキが崩れないように慎重に走ってきたから、行きよりだいぶ時間がかかったけど日が落ちる前に戻れた。
結局大きいのは買えなくて一人分みたいな小さいのになっちゃったし、ロウソクも50本も買えなくて1本だけにした。だいたいエロ仙人の歳が50と幾つになるのかよく知らないし、このケーキにロウソク50本も立てたら怖いことになりそうだったから。
戻ってみたらエロ仙人はまったくおんなじ格好で座り込んで空を見上げていた。オレがいなかったことも気付いてないんだろうなあ。
箱を開けてみたら、上のクリームがちょっと崩れてた。許容範囲、と自分に言い聞かせてロウソクを立てた。準備オッケー。
「なーエロ仙人」
ケーキを持って、エロ仙人のところへ行った。
「誕生日忘れてて悪かったってばよ…小さいケーキだけどこれで機嫌直して欲しいってば。苺一個しか載ってないけどエロ仙人にあげるし…」
エロ仙人はオレを見て、オレの胸の前のケーキを見て、1本だけのロウソクの火を見て、そんで言った。
「…は?誕生日?わしか?」
…おいッ!?
忘れてるし!信じられねーってばよ!!
ケーキを地面に叩き付けるように置いた。本当は投げつけたかったけどそれはさすがにもったいなくて出来なかった。ロウソクが傾いて崩れかけてたクリームは修正不可能状態になったけど、もうどうでもいいことだ。
言いたいことが山ほど浮かんできたけど、結局口から出てきたのはこれだけだった。
「エロ仙人のバーカッ!!もう知らねーってばよ!」
そして後ろを向いてその場から逃げ出すことしか出来なかった。
寝転んで大の字になって、オレもエロ仙人みたく空を見ていた。端っこの方からだんだん赤くなってく。
「…もう、どーしたらいいのかわかんないってば…」
空見てたらなんか浮かぶのかと思ったけどムリだ。だいたいなんか浮かぶんだったらエロ仙人だって一日中空を見てないだろうし。
「…はあ」
何回目かわからないため息をついた時。
「…のォ」
エロ仙人が覗き込んでた。ちょっとだけバツの悪そうな顔をしている。
「何だってばよ」
口を尖らせて答えた。
「…いや…悪かったのォ。そういえば今日はわしの誕生日だった」
「自分で誕生日誕生日って言っておいて、忘れてるなんておかしいってば、ありえないってば」
よりいっそう口を尖らせてそっぽを向いた。
「…お前は覚えていてくれたんだな」
「あったりまえじゃん!当然だってばよ」
今朝まではきれいさっぱり忘れていたことは言わないことにした。一日振り回されたんだからここでしっかり恩を売っておかなければ。
「すまんかったの」
エロ仙人の口調が本気で申し訳なさそうだったから、ちょっと許す気になった。しぶしぶ起き上がる。
「機嫌直して、コレ一緒に食わんか?せっかくお前が買ってきてくれたんだからの」
エロ仙人の手にはオレが買ってきたケーキがあった。ロウソクは真っ直ぐに直してあった。クリームは…まあ仕方がない。
「街まで行って買ってきたのか?遠かっただろ」
「おお、すっげー大変だったってば!」
元気よく答えたらエロ仙人は笑って、ありがとうのォって小さく言った。
修正不可能になったクリームには二人で見ないふりして、ケーキを食べた。
「ンじゃあさ、なんでエロ仙人ってば今日一日ぼーっと考え込んでたんだってばよ」
食べながら聞いてみる。エロ仙人はちょっと空を見上げて眉をしかめてから答えた。
「…実はの、小説の締め切りをすっかり忘れておってのォ。そのことを今朝いきなり思い出しての」
「…はァ!?」
「何を書くかすら決めてなかったもんで…いいアイデアでも浮かばないかと考えておったんだが、いやー焦ると浮かぶものも浮かばんのォ」
…そんなことの為にオレは一日振り回されてたの!?ていうかオレの修行の最中にもこの人、小説書いたりしてんの?ホントーにマジメにオレの修行見てくれる気あるのーーーー!?
心の中で絶叫してるオレに、更にエロ仙人は言ったんだ。
「のォ、ナルト、昼間の時のようにちょっとおいろけの術をやってみてくれんかの」
「え?」
「いや、おいろけの術だけではインパクトが弱過ぎて小説の題材には使えんと思ったんだがの…これにケーキが組み合わさるとひょっとしたら何かこう…裸にケーキというのはなかなか…」
エロ仙人の表情がだんだんいやらしくなっていく。今この人の頭ん中がどんなになってるのかは考えたくもない。
「のォ、わしを助けると思って。コレを誕生日プレゼントってことでもよいから、な?」
「………絶っっ対に、ヤダ」
エロ仙人の顔にケーキを投げつけるのだけは、今回もかろうじて思いとどまった。
自来也様生誕祭という素敵企画様への捧げ物。
この師弟コンビは本当に可愛い。
05.11.24UP
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