山百合の墓
「夢かと思っておりましたが…本当だったのですね、兄者」
いつのまにか、夕羅の後ろには威音がひっそりと立っていた。
「…威音」
一足先にこの地へと戻ってきていた威音だった。
「これは、あの人の墓なのでしょう…?一度だけ兄者が連れて行ってくださった」
「…よく覚えていたな」
この墓がなければ、自分ですら夢だったのではないかと思ったに違いない。
「初めて、兄者と一緒に行った場所ですから」
そう言って威音は笑顔を向けた。
幼いということは幸せで。幼いということは残酷で。
自分が当時向けていた悪意をこの妹は知らぬのだ。
いや、本当は気付いていたのだろうか。
気付いていないのは、幼かった己のほうなのだろうか。
それでもまだ、己を慕っているのだとしたら。
愚かな妹。
そして…愚かな兄。
百合が揺れた。墓の周りの草むらにひっそりと佇んでいる山百合。
派手な色をして咲き誇っているのに、なぜかはかなく。
夕羅は墓に背を向けた。兄の背中を見守っていた威音が後に続く。
「兄者」
後ろから威音が声をかけた。夕羅が肩越しに振り向く。
「あの人に会ったことは、まだ誰にも言ってはだめですか」
幼い頃と変わらぬ真剣な眼差しで威音は問い掛ける。
かつて自分が威音に告げた言葉を思い出し、夕羅は苦笑いした。
「…別に。もう言ったところで叱る者もおらぬし」
そしてわずかに首を振って呟く。
「誰も信じぬだろうがな」
そう。この兄妹の言うことを、素直に聞く者はいても信じる者はいない。
「誰にも言いませんよ」
兄の背に向けてそう言うと威音は微かに笑い、更に口の中で付け加えた。
「…二人だけの秘密ですから」
過去の話を捏造するのがわりと好きみたいです。
それにしても時代劇だ(笑)。おまけにこんな繊細なお子様があんな人に成長するなんてありえない。
ラスト、威音と夕羅の関係がなかなかうまく書けたのではないかと自負しております(おバカ)。夕羅と百合音の話のフリをしていますが実は夕羅と威音の話だったりします。威音は夕羅が大好きだといい。
結構タブーに触れている内容で、これ表に出していいのかな的話ではあります。12禁位にはなるんじゃないのか、コレ。
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