山百合の墓
7.別れ
夕羅は葬列を眺めていた。
ひっそりとした葬儀だった。遠く、小高い丘の上に夕羅はいた。そこから見ると付き添う者もいない葬列はより寒々しく思えた。
見つからないようにしゃがみこんで、夕羅はゆっくりと移動する列から目を離さなかった。
彼女は結局、処女のまま死んだのだろうか。そんなことをぼんやりと思いながら。
ゆりねの葬式だった。
威音を連れて行った日を最後に、夕羅はゆりねに会えなくなった。
幾度行ってもゆりねは姿を見せず、縁側に近付いて声を掛けても応答がない。勝手に開けて入り込む勇気は、さすがに夕羅にもなかった。
そんな日々を繰り返した末、夕羅はこの葬列を目撃することになった。
隠された存在の隠された葬儀とはいえ火葬にするには運び出さねばならず、病弱でいかにも軽そうだった彼女でもその身体を入れる棺の大きさは普通の人間とさほど変わりはしない。 それでも、その棺を囲む人数は少なく、どこか恥ずかしげだ。
この里に火葬場はひとつしかない。
小さな火葬場は普段めったに使われることは無かった。ここの人間は皆、外で死ぬから。
あからさまに葬式だと分かる眺めを、月虎の里の人々は見て見ぬ振りをしていた。
あの父親が、昔の庄屋と同じことをするはめになったら面白かったのに。
夕羅はそう思って唇を歪めた。引きつった笑いが喉の奥から漏れる。
だがいくら古くからの歴史を持つ月虎の隠れ里とはいえ、そんな迷信を信じる者などいるはずもなく、ゆりねすらも冗談めかして言ったにすぎない。
心の中で何かがざわざわする。
なのに涙は出てこない。
居ても居なくても同じで、会っていなければ夢かと思うような存在だった。
会えない時間がこれから長く続くだけ。
ただそれだけなのだから。
森の奥の火葬場から煙が上がり、時が経つとまた静かに壺を掲げた行列が出てきて去っていった。
森の境を辿った先の空き地に、小さな墓が並んでいた。そのひとつに納められるまでを見届けると、夕羅は自分の屋敷へと戻っていった。
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