銭形日誌
○月×日 (晴れ)
深夜帰宅途中、住宅街の中にあからさまに不審な男が立っているのを発見した。
男のくせに膝まで届く長い髪。
左眼はない。
背は高く、袴姿。ものすごく目立っている。
不審者以外の何者でもない。
わしの警部としての勘がそう言っている。
というわけで職務質問してみた。
が、呼び止めたわしをきっちり無視した。この銭形にその態度。後悔するぞ。
着物の袖をがっちりつかんで詰問する。ものすごく恐い顔でこっちを見ているが気にしないことにする。
…ところで懐に隠しているのは脇差ではないだろうか。
「名前は」
「・・・」
「…名前だ、名前ッ」
「なぜ名乗らねばならん」
「わしは警察だ!答えんと公務執行妨害になるぞ」
「私を捕まえたりしたらお前がクビになるだろうよ」
わけがわからないんですが。
全部そんな調子でまったく先に進まない。
「まったく…五右ェ門みたいな格好しおって。まさか、ルパンと関係があるんじゃないだろうな…」
わしの独り言に思いがけず男は乗ってきた。
「五右ェ門…?お前奴らを知っているのか」
「知ってるも何も、わしはルパンを追って世界を駆け回っている」
「…ふうん」
男はにやにやとわしを眺めてきた。なんなんだ。
「なるほど、ルパン三世を捕まえてはは逃げられてる間抜けな警部がいると聞いたがお前のことか」
余計なお世話だ。
「名は」
「銭形だ」
…って。
なぜわしが逆に質問されているんだ。
「今質問してるのはわしだっ!わしの質問に答えんか!!お前の名前は!!!」
再び無視。
道○公団の総裁並に自分の言いたいことだけ言って、人の話は聞かん男だ。本当に逮捕するぞ。
その時、すぐそばに音もなく一台の車が停まった。
今時悪徳政治家だって乗ってないような黒塗りのロールスロイス。
まさか、車の外側に傘がしまえるという無駄な機能が付いた最新式か!?
降りてきたのはなぜか男と同じ袴姿の男。
最近着物が流行ってると聞いたが本当だったんだな。何か違う気もするが。
「いかがいたしましたか」
降りてきた男が問い掛ける。わしを不審な物を見る目つきで眺めてくる。
不審者はお前らの方だろうが。
わしをまったく無視して二人は話を進める。
「いや…終わったか」
「はい、完了いたしました。ところでその男は…?」
「ああ、近付かん方がいい、間抜けがうつる」
し、失礼な。
いつの間にか男はわしの手を振り払って車に乗り込もうとしていた。
「おいっ、ちょっと待て…」
「銭形警部だな、覚えておいてやる」
振り向きざま、悪役のようにえらそうな捨て台詞を残して男は去っていった。
何だったんだ。
しばらく呆然と見送ってしまった。
あれ、そういえば車から降りてきた男の方、腰に刀さしてなかったか?
…まさかな。
頭の中が混乱してきたのでその日は家に帰ると酒も飲まずにすぐ寝てしまった。
次の日、その近所の豪邸から黄金像が盗まれたという話を聞いた。
ルパンの仕業ではなかったようなので、ま、いいか。
わしが昨日その近辺を歩いていたことは秘密にしておこう。
○月△日 (曇り)
久しぶりに本庁へ登庁したら上から呼び出しをくらった。
なんだかものすごく怒られた。が、何で怒られているのかがさっぱりわからない。
この間の黄金像盗難事件の際、近所を歩いていたことがばれたのかと思ったが違うようだ。
言葉を濁したり、伏字にしたりして怒鳴っている。器用なものだ。
一生懸命聞いていたらなんとなく思い当たったので
「先日職務質問した、長髪で片目のない男のことでしょうか」
と聞いたら顔色が変わった。
赤くなったり青くなったりしながら何かぶつぶつ言っている。
口に出すのも恐れ多いとか、なんとか…
そんなに急激に血圧が上がったり下がったりしたら身体に悪そうだなと思いながら見ていた。
結局説教は中断され、そのまま追い出された。ラッキー。
しかしあの男、どうも上層部と通じている大物だったようだ。
わしには変人としか見えなかったが。
だいたいなんでそんな大物が住宅街の中を一人でふらふらしてるんだ?
やっぱりちょっとおかしい男に違いない。
今度会ったら関わらないようにすることにしよう。
あんな目立つ男、遠くからでもわかるに違いないからな。
それにしてもこんな風に呼び出されたということはあの男、きっちり告げ口しやがったらしい。
覚えておいてやる、と言ったのはこういう意味か。
大物ぶっていたわりには、やることの小さい男だ。
わしに敵う相手ではないな。
で、結局あの男、名前は何と言うんだ?
夕羅様絵を頂いたのとリンクのお礼に、えっちょんさんにお送りしました。絵頂いたのも、リンクして頂いたのも遠い昔の話です…遅っ。
銭さん書きます、と言ったはいいものの何も思い浮かばなかったので
「何かシチュエーションください」と言ったら 「銭さんと夕羅様絡むの考えられない〜」と。
「いや、別に夕羅様絡む必要は…」とその時は言ったものの、じゃあ夕羅様が絡むとどうなるんだ?と思ったらこれが浮かびました。
いや〜、えっちょんさんが”アレ”作るってわかってたらエロを書いたんですけどねえ(書けないくせに)
名前出てこないですけど、夕羅様です(笑)。
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