夜の国
眼下に広がるは、一億の光。
ビル風に煽られながら見下ろす。
幼い頃から、闇に広がる人工の光を見つめては想いを馳せた。
夜の世界には何があるのか、と。
初代も、己の父も暗躍したその世界にいつも憧れた。
心地よい高揚感。仕事の前にはいつも感じている。
地上を見下ろし、随所に明かりと共に配置された警察の包囲網に目をやる。
「いっつもご苦労様、とっつあん」
口の中でつぶやく。
手にしたトランシーバーから声が響く。
『配置完了、いつでもどーぞ』
わざとちゃらけた次元の声。
「りょーかい」
苦笑を浮かべてルパンは応じた。そしてもう一人の男にも確認する。
「こちらルパン、次元は準備OKだそうだ。そっちはどうだ?」
『いつでも良い』
そっけない返答が返ってくる。
独りぼっちで屋上に立ちながら、なぜか安心している。
頼りになる相棒と、信頼できる侍。
『待ってるわ』と囁いた、信用できない女。自分を取り巻く仲間達。
自分を捕まえることに執念を燃やす、熱血警部。
全てがパズルのピースのようにはまる。この夜の世界に。
その中心に自分が居れたらと、そう思うのは過信だろうか?
パズルをはめ込んでいるのは自分だと、そう思うのは思い上がりか?
夜の国を支配したいと、願った。
想いは今、叶っているのだろうか。
ルパンは立ち上がる。肩にかけたロープを確かめる。
「行きますか」
自分を鼓舞するように声を出す。
―― 夜は始まったばかりだ。