TREAT? but TRICK!

「外が賑やかね」
部屋から出てきた不二子が次元に声をかけてきた。次元はソファにもたれ行儀悪くサイドテーブルに足を乗せている。
「ハロウィンだろ。さっき間違ってこの家のドア叩いてったバカなガキが居たぜ」
「あら、お菓子あげたの?」
「冗談じゃねえ。この家にそんなもんあると思うか?ドア越しに怒鳴って追い返したさ」
「可哀相」
「酒のつまみでもやりゃよかったのか?」
不二子は無言で肩をすくめ、次元の横に腰を下ろす。
「ハロウィンか…思い出すわね、子供の頃のこと」
「…はッ、お前がガキの頃ね…さぞかし可愛かったんだろうな」
次元の皮肉のこもった言葉は無視し、不二子は語り始めた。

スラム街で暮らしていた頃のことよ。…ええ、スラム街で暮らしていたことがあったの。
ハロウィンの夜、母親は仕事に出かけてたわ。
私は外を歩く子供たちを窓からずーっと見てたの。私も他の子供たちみたいに仮装をしてお菓子を貰って歩きたかったけど貧しくって衣装を買ってもらえなかったのよ。作ってもらえるわけもないしね。家のことなんか何にも出来ない人だったから。
父親?…父親については思い出したくないわ。
でもとうとう我慢できなくなって、考えた末ベットからシーツを引っ剥がしてきたの。もうボロボロだったから簡単に引き裂けたわ。それをドレスみたいにして巻きつけたのよ。
自分ではマリリン・モンローのつもりだった。七年目の浮気ってやつ?あのドレスよ。
ひび割れた鏡の前でポーズを取ってみて、すっかりその気になって意気揚々と外に出たの。
その時には子供たちの集団はもう遠くへ行った後だった。かすかに聞こえるはしゃぎ声を頼りに後を追っていったの。
でも全然追いつけないのよ。
困ったな、って思った時横から声を掛けてきた人がいたの。おじょうちゃん一人なのかい?お菓子あげようかって。
もう顔なんか覚えてはいないけどその時は親切そうなおじさん、って思ったのよ。あ、この人に他の子たちがどこへ行ったか聞いてみればいいわって思って近づいていったの。
おじさんが手招きするままに路地に入った。
真っ暗で誰もいない細い路地よ。隅にゴミが溜まってるのが見えた。
なんかちょっとおかしいなって初めて思ったの。
その途端壁に押し付けられたの。それでまとってたシーツをビリビリって破かれたわ。
何をされるのか悟って必死に抵抗した。
どうやって逃れたのか、どうやって帰れたのかまったく覚えていないけど、気が付いた時には自分の家の床に座り込んでいたの。ほとんど裸に近かったわ。 怖くって涙も出なかった。
その時、思ったのよ。
強くならなくっちゃって。
もう二度とこんな目には遭いたくない。誰かに付け入られたくなんかない。
それには強くならなくっちゃ。強くなって賢くなってこんな場所からとっとと抜け出すのよってね。

「…なんて言ったらいいか…」
黙り込んだ不二子を横目で見ながら次元が口を開きかけた時。
「っていう話をデートの時にしたら絶対効果あるって思わない?」
けろっとした顔で不二子が続けた。
「…ああそうだな…って、えええええええええ???」
「ちょっと感動的でしょ?どんな男もイチコロよね?男ってこういう話に弱いものねー」
「…今の話は嘘か?嘘なのか!?オイ!!」
不二子は答えずにフフフ、と笑うと立ち上がった。
「うん絶対イケるわ。これ使おうっと。私これから出かけるから。じゃね、次元」
「いやちょっと待てって!」
混乱に陥る次元をよそに颯爽と不二子は出て行った。
ドアの外でくすくすと笑う。
「私がスラム街に住んでた訳ないじゃない…バカね、単純なんだから」

残された次元は呆然と不二子が出て行ったドアを眺め呟いた。
「…おい…ハロウィンはエイプリールフールじゃねえぞ…?」





ハロウィンというイベントに私も便乗したくなって書いてみました。ありがちネタですが。
この話では不二子の持ちネタということですが、不二子は実は貧しい生い立ちで、だからお金に執着してるっていう設定はアリだと思います。 (06.10.30UP)



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