金色の闇

視界の全てを埋め尽くす一面の黄金色。
夏の空は薄い青。その境が黄色に滲んでいるような錯覚を覚える。
いつしか目の前は金色に染まる。
一面の向日葵畑。
南欧の太陽の下、天を見上げ咲き誇る。
明るい夏の景色のはずなのに、胸が痛むのはなぜだろう。

「じげーん」
後ろから呼ぶ声が聞こえた。
次元はゆっくりと振り返る。向日葵畑の終り、回りを囲むように高く築かれた道に五右ェ門が立って、手を振っている。
坂を駆け下り、向日葵の中に消える。
自分がいつの間にか畑の真ん中に入り込んでしまっていることに、次元は今更ながら気付いた。
脈絡のない迷路の真ん中。
五右ェ門は自分を見つけられるだろうか。
戻ろうと思ったが、五右ェ門とすれ違いになることを恐れて次元はその場に立ち尽くした。
自分の目線と変わらない高さにある花に囲まれ、視線を遮られる。伸び上がって目をやると黄色の海に五右ェ門の頭が見え隠れした。
近付いているのか、遠ざかっているのか、視線を落とすと緑の林に変わる畑の真ん中で次元はただ待っている。
「探した。すごい向日葵だな」
息を弾ませながら、五右ェ門が次元の前に立った。
「なんでこんなところに居るのだ」
「…さあな」
最初は上から見ていたはずだった。黄金色の波を見ていることに耐えられなくなって、自分から飛び込んでみた。
なぜだろう。
夏にも、花にも、思い出はたくさんあり過ぎて、思い出すことさえ難しい。
どうでもいいような記憶が混じり合って、自分を縛る。こんな何気ない情景にさえ、反応してしまうように。
「ルパンが探してるぞ」
五右ェ門が笑う。
 金色の向日葵も、緑の茎も、薄青い空も、全てが夏の日差しに霞む中、目の前の存在だけが輪郭を持って次元の目に飛び込んでくる。
青い着物。黒い髪。覗き込む茶色の瞳。白い指先。
「上から見たほうが綺麗だろうに」
空を見上げる五右ェ門の肩に手を伸ばし、次元は引き寄せた。
「でも、ここだったらこういうことも出来るぜ」
白い首筋に軽く唇をつける。
一瞬舌を這わすと太陽の暑さを感じた。
五右ェ門は目を丸くして次元を見たが、やがてふっと笑った。
「なんだ…やはりいつもの次元だ」
「…?」
「ルパンが、今日の次元はちょっと変ではないかって…」
次元は口の中で舌打ちした。そんなに解りやすいのか、俺は。
「そんなわけねえだろう」
五右ェ門の頭に手をやって、髪をかき回す。日なたの匂いがする。
次元の手の下で五右ェ門がくすくす笑う。その笑い声が少しだけ次元を解き放った。
風景によって偽造された過去の思い出から。

懸命に緑の林をかき分けて進む五右ェ門の後について行きながら、次元は頭上の太陽を振り仰いだ。
向日葵のように。
上ばかり見るのは、自分の足元の影を見ない為か?
明るければ明るいほど濃くくっきりと地に焼き付く、闇の色を見ないように。
だから向日葵は太陽に顔を向けるのか?
畑から抜け、坂を登りながら次元は肩越しに振り返る。
上から見る向日葵の群れは、ただ金色の炎の絨毯。
明るさだけを振りまいている。

明るい夏の風景。
胸が痛むことなど、ないはずだ。

「次元」
五右ェ門が手を差し伸べる。
次元はその手を取り、最後の一歩を踏みしめ道の上に立った。並んで歩き出す。

もう後ろは振り向かなかった。






この間、テレビでゴッホの「ひまわり」を見て、本当の寂しさというのは明るい日差しの中にこそあるのではないかと思い、それが表現できたらと思ったのですが…う〜ん?
以前美術館でゴッホの絵を見て泣いてしまって以来、彼は私の弱点でして(苦笑)。あの人の絵は見ていて辛い。でも好きなんだ。



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