不二子のお仕事日誌
私、峰不二子は只今月虎会傘下、方羽家のお屋敷に潜入中。
それというのもルパンが伝説の茶器「古天明平蜘蛛」を手に入れたいなんて言い出したから。
面倒だけど、諜報活動なんて高度なことが出来るのは私くらいだから仕方がないわね(…それにあの茶碗、売ったら相当な額になるみたいだし)。
さっそく月与奥様にも気に入られて、本当自分で言うのもなんだけど天才だと思うわ。
さて、ルパンに定時連絡しなくっちゃ。
『ええ、こっちは順調よ。まだ茶会のいつ「アレ」が出てくるのかはわからないけど…絶対調べて見せるわ…ええ……あーハイハイ、私も愛してるわ。ンじゃね』
「何をしている」
電話を切った瞬間、近くで声がした。
振り返るとそこには月虎夕羅。
「あん、えっとぉ…」
慌てて携帯を後ろに隠し、もう一方の手で袂に手をやりながら上目遣いに夕羅を見る。
お色気で見逃してもらおう作戦だ。
ところが不二子の顔を見た途端夕羅は顔色を変えた。
「…ム、お前は…まさか…」
何故かじりじりと後ずさり、夕羅は逃げるように去っていった。
あらこのポーズ、想像以上に効果的?何か違う気がするけど。
…そうか、あの作戦が効いているのね!
不二子は一方的に納得し、片方の手のひらを拳で叩くという古典的なポーズを取った。
私の計画的な行動が実を結んだんだわ。
月虎夕羅がこの屋敷に到着して以来、彼の周りに出没しては気を引く態度を示してきた。
流し目を送ったり。
ウインクしてみたり。
投げキッスしたり。
着物の裾をまくってみたり。
もう考えられる限りのありとあらゆる、気のある素振りをしてみたの。
その結果、このところ私を見ると目をそらしたり、進行方向を変えたりするようになった。確実に私を意識しているわね。
それにさっきのあの態度。
そろそろ直接攻撃のころあいだわ。
不二子は月与に命じられていた仕事のことも忘れて、うきうきと自分の部屋へ戻っていった。
その頃逃げた夕羅は壁とお話し中。額を押し当てぶつぶつと呟いていた。
「危なかった…あのストーカー女にうっかり声をかけるなど…」
「あのー、夕羅様?」
突然話しかけられ、夕羅は思わず叫んだ。
「うわっ」
「うわ?」
首をかしげて夕羅の言葉を繰り返しているのは、この屋敷の女主人(ストーカー予備軍)だった。
「つ、月与か…脅かすな」
「申し訳ございません。…どうかなさいまして?」
「なんでもない」
立ち去りかけ、思い出して月与に確認を取ってみた。
「月与…そなた雇う人間はちゃんと選んでおるんだろうな…?」
「え、ああはい、もちろんですわ」
微笑んで答える月与は『愛しの夕羅様』の顔ばかり見ていたので何にも聞いていなかった。
「…もっとゆっくり来れば良かった…」
後悔しつつ夕羅は自室へと戻ってきた。今日はもう夕餉までここから出ない方が良さそうだ。
そんなことを考えながら襖を開けると、
「ゆ、ら、さ、ま」
(声に桃色が付いているのが見えた、と月虎夕羅は後に証言している)
部屋の真ん中に、不二子が横たわっていた。
先程見たのとは違う着物姿。妙に身体のラインが強調されている。
そして着物姿にはあるまじき悩殺ポーズ。
一瞬の間の後。
パタン。
「ちょっと!なんで閉めるのよ!」
思わず叫んだ不二子だった。
薄く開いた襖の間から夕羅の顔が覗き、ため息まじりの声がした。悟りきった声だった。
「…努力は認めてやる…だがせめてTPOをわきまえろ…それ以前の問題だがな」
再び閉まる襖と共に捨て台詞も聞こえた。
「というか、二度と来るな!」
そして去っていく足音。
何よ、せっかくお誘いに乗ってあげたのに。ずいぶん失礼じゃない?
あん、わかった!
こんな昼間っからは恥ずかしいから夜にまた来いってことね?もうちゃんとそう言えばいいのに、回りくどいったら。
(勝手に)承知した不二子はいそいそと部屋を後にする。
最後の夕羅の台詞を不二子はまったく聞いていなかった。
「あら夕羅様、お部屋にお戻りになったのでは?」
再び月与が声をかけてきた。何故か常に自分の行き先に現れる。だが今はそれについて深く考えている余裕は夕羅にはなかった。
「…月与、」
肩を掴んで凝視する。さすがに月与もぽやーっと顔を眺めてるわけにはいかなくなった。
「最近雇った女がいたな。そなたずいぶん気に入ってるようだったが」
「ええ、不二子さんのことですか?何か」
「…不二子?」
「確か、峰不二子…とか」
「…峰…不二子…その名前聞いて…雇ったのか…」
がっくりと夕羅は肩を落とした。力が抜ける。
ルパン三世の仲間だろうが!!!
心の中で叫んでいた。
この女、茶会が終わったらクビだ。
夜。
昼間以上に準備万端で、不二子は夕羅の部屋へとやってきた。
昼間と同様、誰に咎められることもなく夕羅の部屋へと忍び込む。
セキュリティゆるゆるよね、ここ。あ、じゃなくて私の腕?
月与の奥様も月虎夕羅の気を引こうと必死になってるみたいだけど、そんなまどろっこしいことしてないでさっさと寝室に潜り込んで押し倒しちゃえばいいのにね。
簡単に落ちるわよ、きっと。
余裕たっぷりで支度を済ませ、不二子は夕羅の帰りを待った。
結局その後部屋に戻ることも出来ず、屋敷内では行く先々で月与にまとわり付かれ、ぐったりした夕羅が帰ってきたのは深夜近く。
恐る恐る開けた部屋には誰もいなかった。ほっとして続く寝室の襖を開けると。
不二子が満面の笑みで出迎えた。
(今度は室内に桃色の光源が見えた、と彼は後に証言している)
身体に沿って流れる単はシースルーで、もちろんその中身を惜しげもなく透かして見せる。
布団の上にしどけなく横たわり色気たっぷりに呼びかけた。
「お待ちしておりましたわ、夕羅様」
「うわっ」
うわっ?
パタン。
「だから閉めるなっつーの!」
思わず言葉の荒くなる不二子であった。
今度はさっきの倍以上の時間が経ってから襖が開いた。おそらく正気に戻るまでずいぶんかかったのだろう。
襖越しの夕羅は顔を上げようとはしなかった。地の底から響くような低い声で呼びかける。
「峰不二子ぉ…」
あら、バレてる?
「…一体何が目的だ…」
「えっ?やだ私はただ夕羅様がぁ…」
顔を伏せたままの夕羅からは不穏な空気が漂っていた。全身がブルブルと震えている。
「…情報はくれてやる…お前がこの屋敷にもぐりこんでいることも、月与にも誰にも黙っておいてやる…」
押し殺した声も怒りで震えている。
「…だから…とっとと私の部屋から…出、て、行、け!!」
最後の言葉はほとんど絶叫だった。
ということで私は部屋から追い出されたわけ。
照れ隠しだかなんだか知らないけど怒鳴らなくったっていいじゃないねえ。
私に手も出そうとしないなんて本当ウブなんだから。
まあとりあえず作戦は成功。情報は手に入れたからいいわ。
今回も楽な仕事だったわね。さあ、ルパンに連絡しなくっちゃ。
***
夕羅は不二子との約束は一応ちゃんと守った。
が、茶会当日ルパンの正体がバレた際、あの女もグルだ!と真っ先に叫ぶことは忘れなかった。
自分達の萌キャラを受けで書いてみよう企画「男受け祭り」提出作品。
シリアスで書く予定がムリだったのでこんなのになりました(笑)
一応「風雅に奪え!」ネタです。読んでない人には意味不明(爆)。
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