予告状
大晦日から新年にかけて、どっかで何かしちゃうかもよ?
つーわけでよろしく(ちゅっ)
ルパン三世
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―― 12月31日午前10時
日本国某所 ルパン三世のアジト
「だってさー、とっつあん独身でしょー。一人寂しく正月過ごすよりは皆で過ごした方がいいんじゃないかなっ、て。正月もお仕事なんてとっつあんらしくていいんじゃない?」
コタツに足を突っ込んで目はテレビに向けたまま、ルパンは目の前の蜜柑を手に取った。今年の正月は寝正月。と宣言し既に実践中なのだ。
要するに、予告は出したものの仕事をする気はまったくない。
「今年最後のオレからのプレゼント」
ちゅっと投げキッスのポーズをしてみせる。
「迷惑な…」
「気の毒に…」
同じようにコタツに潜り込んでいた次元と、部屋の隅で刀の手入れをしていた五右ェ門はそれぞれに溜息をついた。
―― 12月31日 午後1時
日本国桜田門 警察庁内
「というわけで、ルパンから予告状が届いた!あいかわらずふざけた予告だが奴は必ず現れる!今まで予告を出して奴が現れなかったことはないのだ!皆心して警戒にあたるように!
奴が狙いそうな場所は既にピックアップしてある、各人確認して配置についてくれ!!」
常と変わらず、否、いつも以上に張り切っているように見える銭形を前に、集められた警官たちはめいめい沈んだ顔を隠し切れずにいた。
間違いなく、新年は我が家では迎えられまい。
―― 12月31日 午後4時
日本国某所 ルパン三世のアジト
「ふっじこちゃ〜ん♪」
ドアを開けて入ってきた不二子を見てルパンが声を上げる。次元と五右ェ門は僅かに眉をしかめたが結局何も言わなかった。
「相変わらずねえ…男三人で大晦日なんて。寂しい人たち」
抱え込んでいた紙袋を上げてみせた。
「どうせ食べ物だってろくにないんでしょ。はい、差し入れ」
「わお、不二子ちゃん気が利く〜」
いそいそと紙袋を受け取って覗き込むルパンの横で次元がにやりと笑った。
「そういうお前はどうなんだよ」
「…え?」
不二子はわざとらしく目をぱちぱちさせてみせる。
「さてはお前、振られたな」
「な、何よ」
「いっつもはニューイヤーパーティだとか言っていないくせに。今回はパートナーが見つからなかったんだろう」
「う、うっさいわね!今年は家でのんびりしたいな…って思っただけよッ」
「あーそうかい、そりゃ良かった」
「ほんっと感じ悪いわね、あんたってッ!」
睨みあう二人の中間に座っていた五右ェ門は視線でルパンに助けを求めたが、ルパンは紙袋の抱えてさっさと台所へ逃げ込んでいた。
―― 12月31日 午後8時
日本国某所 月虎夕羅邸宅
日本の正月を迎えるに相応しい門構えの家の中には、年末の慌しさなど感じさせない重厚な時が静かに流れていた。
夕食を済ませ自室へ戻ろうと廊下を歩いていた夕羅は、そんな静かな空気を掻き乱す足音に眉を顰めて振り返った。
夕羅の後ろを、妹の威音が慌てて追いかけて来る。
「あ、ああ、兄者っ!」
「…そんなに大声を出さずとも聞こえている」
一瞬問題でも起きたかと思ったがどうも違うらしい。なぜか一定の距離を保って立ち止まり口篭もっている。
「…威音…?何の用だ」
「…え、ええと…」
赤くなってうつむく威音の姿は夕羅に大層不審の念を与えていたが、本人はそのような事にまで気が回らない様子。
「ああ、あのっ…明日、元旦兄者は何か出掛ける予定とかおありですか」
ようやく意を決して言葉を継いだ。
「…別にないが」
「どっどなたか女性の方と初詣の約束とかしてないですか?」
「…あるわけがない」
「じゃ、じゃあっ、兄妹水入らずで初詣に行きませんか?」
「…別に構わんが」
「ありがとうございます!約束ですよ、兄者ッ」
うれしそうに飛び跳ねながら去っていく威音の後姿を見送って、夕羅は首を傾げていた。
「…何か企んでいるのか?」
―― 12月31日 午後11時30分
日本国某所 ルパン三世のアジト
夕方からほとんどポジションも変わらずに、4人はめいめいコタツに潜り込んで時を過ごしていた。
変わったのは周りに散らばる酒の空き瓶の数とテレビ番組の内容位。非常に停滞感の漂う室内で唐突に不二子が声を上げた。
「そうだ、ねえ、年が明けたら初詣行きましょうよ!!」
「はあ?今から??」
「あー…止めた方がいいぜ」
次元が口篭もるように呟く。
「なんでよ」
「…ルパンが嘘予告出したからよ、ここ二日ばかり街は警官だらけだぜ。へたに外出てみろ。あっと言う間に捕まっちまう」
「なんでそんなことするのよ!!」
怒鳴る不二子に、ルパンは申し訳なさそうに首をすくめてみせた。次元と五右ェ門は知らん顔を決め込む。
口を尖らせて寂しそうに不二子は呟いた。
「…日本人なんだから日本人らしいことしたいじゃないのよお」
「あ、オレフランス人だから」
「オレアメリカ人だし」
「えっ!?せ、拙者
―――…」
三人の態度にとうとう不二子はコタツから立ち上がり、腰に手を当てて叫んだ。
「もーッ、初詣に行くって言ったら行くの!!!今年ももう終りなんだから最後くらいあたしの言うこと聞いてよッ!!!!」
「…よ、よく言う…」
新しい年まであともう少し。
皆様もよいお年を。