BLUE MOON

***

 河からの風が彼の頬を撫で、袴のすそをわずかにひるがえした。
 その変わらない空気を彼はそっと胸に吸い込んだ。
 周りの風景は変わったのだろうか、変わらないのだろうか。もう覚えてはいない。
 あの頃は、周りのことなど見ていなかった気もする。
 ただ河から吹き上げる風の柔らかさは、記憶の底をやさしく撫でていった。
 河に沿った道を五右ェ門は歩いていた。
 またここに来ることを考えたことがあっただろうか。他の街へ戻ることはあっても、この街だけは永遠に訪れることがないと思いこんでいた。
 特に何があったというわけでもなく、それでいて確かに何かは彼に起こったのだ。敢えて思い出したくなかったわけではないのに、なんとなく避けていたのはなぜだろう。
 河の側の広場から子供たちの声がする。
 粗末な服を着て、普通の子供たちよりは幾分痩せて見えるが、楽しそうに走り回っている姿が五右ェ門のところからも良く見えた。
 光の下、表面上は誰もが幸せそうに見える。

   ジュリア、おまえはまだこの街に生きているのか?

 五右ェ門はこの街を離れてから初めて、彼のことを思い出す。
 もう二度と会わない、紺色の髪をした端正な顔立ちの青年と、もうその側にはいないだろう黒髪の少女。
 苦しみと闇に彩られた世界で、独りでは生きていけないような顔をして、それでも誰もが独りで世界を渡っていく。
 そんな世界で、彼等に出会えた自分は幸運だったのかもしれない。
 そして今自分が向かっている先にいる、二人の「仲間」もそんな幸運な出会いと言えるのだろうか?
 目の前にある時は、真実は見えないものだ。
 河からそれて、五右ェ門は街の中心地に近い公園へ足を向けた。小さな噴水のあるその公園は、昔の五右ェ門には縁の無い場所であった。不確かな記憶をもとに、それでも視線の先に水のきらめきが見える位置まで五右ェ門は歩いてきた。
 よく目立つ真っ赤なジャケットと、黒にも見えるコンチネンタル・ブルーのスーツを着た男の姿も人の群れの中に見分けられる。

 それが、今の自分の向かう場所だ。

 歩く速さは変わらないが、いつしか確かな足取りに戻って、五右ェ門は前を向いて歩いていった。






これは本当に昔に書いたものです。なにせ、ワープロ時代の遺物…
当時悩み苦しんでいた自分がモロに出ていて、あの頃は若かったわね、フフフみたいな小説です。
確かルパン初書きモノ。
結構気に入ってはいますが…青い話ですね。文章装飾過多気味だしなあ。
今読むと五右ェ門がいい年して未だに自分探しの旅をしている可哀相な子みたいです(酷)。

文中の表記が「五右ヱ門」なのは、当時の私はこれが正しい表記だ、これ以外は認めねえ!と思っていたからです。直すのが面倒なのでそのままです、ごめんなさい。
「ジュリア」は中性的な名前がいいと思ってつけました。「しらゆり」は名前っぽくないのがいいと思って。あと私は女の子は百合のイメージがいいと思っているのでいつも「ゆり」のつく名前にしてしまいます(頭悪い)。
戦闘シーンをきちんと書きたいとも思ってました。



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